プレス加工の発展の歴史は長く、20世紀の電気・電子機器や自動車などの工業大躍進の時代から、安価で大量生産に適する製造方法として発展してきました。近年では、省資源・省エネルギーの地球環境に配慮した加工方法として、また、高精度な製品の安定生産の加工方法として、ロボットや医療機器などの先進技術産業にとって欠かせない基盤技術として注目されています。
プレス加工は、金属板や薄い素材などの被加工材に大きな圧力をかけることができる「プレス機」を用いて、圧力を加えて形状を変形させたりせん断したりすることで、様々な製品を製造することが可能です。また、金属部品の大量生産において非常に効率的な加工技術の一つで、自動車や電機・電子機器、産業機械などの基幹産業を支える部品産業であり、日本のものづくりの高い技術力はこうしたプレス加工などの基盤技術により維持されています。
今回の記事では、創業以来プレス加工の金型設計・製作、量産まで多くのノウハウ・技術を保有する弊社が、プレス加工の基礎知識からメリットや課題点に至るまで、弊社の製品事例を併せて詳しくご紹介します。
プレス加工とは~プレス加工の基礎~
基礎知識
プレス加工とは、鋳造や製缶板金などと同じ分類である、被加工材の塑性変形を利用した「塑性加工」の一種で、「パンチ」と「ダイ」から構成される金型に被加工材を当て、「プレス機」で圧力を加えて加工します。
プレス加工の方法には主に3種類あり、被加工材を切断する「せん断加工」、被加工材を金型の形に曲げる「曲げ加工」、被加工材を押し下げながら引き伸ばす「絞り加工」があります。それぞれの詳細な加工方法については後述しますが、プレス加工ではわずか数秒で1つの被加工材を加工することが可能で、量産ラインを構築することにより、月に数千~数十万の大量生産を行うことができます。また、イニシャルコストとして金型の製作費が掛かるものの、低コストかつ高い生産効率で製造することができます。
プレス加工には様々な特徴があり、その強みや弱みを理解することで、製品の製造において製品の特性などを考慮した最適な選択をすることができるようになります。次に、プレス加工の特徴を詳しくご紹介します。
- 高い生産性と大量生産に向いている:前述したようにプレス加工は、金型を使用して大量生産が可能な加工方法です。一度金型を製作することにより、その後の製造工程では同じ金型を使用して短時間で多くの製品を連続して製造することができます。そのため、量産に適しておりコスト削減や効率向上に大きく貢献しています。
- 高精度で均一な品質の製造が可能:プレス加工では、非常に精密な加工を均一な品質を保ったまま行うことができ、電子部品などの厳しい寸法管理が求められる精密部品の製造に最も適しています。また、プレス機の決まった位置に合わせて被加工材をセットすることで加工を進めることができるため、自動化しやすいことが特徴です。
- 材料のロスが少なく低コスト:プレス加工では板材を成形して形状を作るため材料を無駄なく使用することができます。特に順送プレスでは、一枚の金属板から複数の部品を効率よく切り出し、材料のロスを最小限に抑えることができ、大量生産に適していることから、コストメリットを出すことが可能です。また、プレス加工では工程の自動化の技術が確立されていることから、人的コストの削減も可能です。
- 加工速度が速い:プレス加工は1回の加工動作(プレス機械の1ストローク)で1工程の加工を完了し製品を作り出すことができるため、他の加工方法と比べて非常に短時間で製品を仕上げることができます。分間数百個のショット・製品を加工できることもあり、生産速度が非常に速いのが特徴です。このことから、大量生産において高い生産性を有しています。
- 金型製作に時間とコストがかかる:プレス加工の最大のデメリットともいえるのが、金型の製作に時間とイニシャルコストがかかる点です。金型は製品ごとに専用のものを作る必要があり、その設計や製作には高い技術力とノウハウ、資金が必要です。特に初期の設計段階では、金型の開発に多くの時間を要することがあり、精度が高い金型を製作するためには技術者の高い技術力が必要不可欠です。そのため、生産数が少ない製品の場合、製品一つ当りの償却費用が高くなってしまうため、金型製作費用をペイできるような大量生産を行う必要があります。
以上は主な特徴であり、プレス加工は多くのメリットを有する加工方法です。以上のことから、プレス加工は大量生産や安定した高精度な製品の製造に適しており、大量生産においては非常に低コストで加工を進めることが可能です。一方、金型の製造に初期コストと多くの時間を要し、少量の製造には不向きです。
生産効率や製品品質の一貫性といったプレス加工の特性を最大限引き出すためには、製造する製品の特性をしっかり理解し、適切な製造方法の選択が必要です。
プレス加工に使用される材料(被加工材)
プレス加工が成り立つ基礎要素として、プレス機械と金型、そして使用される材料(被加工材)が挙げられます。3つの要素が相互に作用して動くことが必須であり、被加工材の選定には、製品の用途や要求される特性などの様々な要素を考慮して選定する必要があります。
プレス加工に使用される被加工材は、鋼、銅やアルミニウムなどの金属が使用されています。近年では、環境負荷低減のためチタンやマグネシウムなどの軽量化材に貢献する材料も注目されています。チタンやマグネシウムは軽量化が必要かつ高い精度が必要となる、航空機やモバイル機器などに使用されており、プレス加工の特性が製品の品質に大きく貢献しています。
代表的な被加工材は、以下のように分類されています。
被加工材 | 鉄鋼 | 普通鋼 | 薄鋼板:SPC,SPH,SAPH,SPFC |
特殊鋼 | 合金鋼 | 機械構造用:S-C,SCr,SCM など | |
特殊用途鋼 | ステンレス・バネ・軸受け:SUS,SKD,SUJ など | ||
工具鋼 | SK,SKD,SKH など | ||
非鉄 | アルミニウム合金 | A1050,A2218,A4032,A5052,A6061,A7075 | |
鋼合金 | C1100,C2400,C2600,C2801 | ||
チタン・マグネシウム | |||
非金属 |
プレス加工で使用される被加工材は、金属が主流で「鉄鋼」と「非鉄」があり、製造する製品に求められる特性によって異なります。自動車や電気・電子部品には、普通鋼の中でも価格の安い熱感圧延鋼板(SPH,SAPH など)や表面肌がきれいで板厚精度の高い冷間圧延鋼板(SPC など)が使用されています。また、中・厚板分野では、プレス加工後に熱処理を行う場合が多く、こうした用途の機能材料として特殊鋼が使用される場合があり、熱処理後の強度を保証するため含有成分量が規定されている合金鋼やさびにくいステンレス鋼の特殊用途鋼を使用するケースもあります。その他に、プレス加工の金型に使用される工具鋼や、軽量材としてのアルミニウム合金や電気特性に優れている鋼合金が被加工材として分類されています。
プレス加工方法の種類
プレス加工は、金属などの被加工材に力を加え、変形させたり切断したりする加工方法であり、様々な産業で広く使用されています。
プレス加工方法は大きく分けて、被加工材を分離させる「せん断」、板状の被加工材を変形させる「曲げ」「絞り」「成形」、ブロック材を成形する「鍛造加工」があり、プレス加工製品の形状や材質、求められる寸法精度により、加工方法を上手く組み合わせて製造しています。プレス加工では、単独の加工で製品が仕上がることはほとんどなく、複数の工程・加工を同時にあるいは連続的に組み合わせて加工を行うことが多くあります。以下に代表的なプレス加工方法を詳しくご紹介します。
せん断加工
せん断加工は、プレス製品の成形には必ず使用される加工方法です。
適切な形のパンチ(左図上側青色)とダイ(左図下側青色)の間に被加工材(左図中央赤色)を置き、それに破壊限度以上の引張力を加えて破断現象を生じさせて、任意の形に切り取ったり打ち抜いたりし、素材を分離させます。せん断の他に「外形抜き」や「穴抜き」などの被加工材に穴をあける加工法もあります。
また、せん断加工は切り口面の精密性により、「普通せん断」「精密せん断」に分類されます。
せん断された切断面はダレ、せん断面、破断面とカエリが発生し、被加工材やパンチ速度、パンチとダイの隙間の違いにより切断面の状態は変化します。パンチとダイの隙間が大きいほどダレやバリも大きくなり、隙間が小さい加工ではクラックが大きく発生し、さらにクラックの方向が途中で変わることによりタングが発生します。
曲げ加工
曲げ加工とは、被加工材の片側に引張力を加え、もう片側に圧縮力を加えることにより、任意の形に曲げたり丸めたりする加工方法で、せん断加工と同様にプレス製品への加工としてよく用いられる工法です。
被加工材を単純に曲げる加工では、V字・L字・U字・Z字などがあり、曲線を描いたような形に曲げる「カーニング」や容器の形に成形する「へら絞り」、被加工材を容器型に膨らませる「張り出し」、円形状の周りに鍔(ツバ)を成形する「バーリング」など、曲げ加工の中でも多様な加工方法があります。
曲げ加工の寸法精度の重要な要素として、圧縮の反力と引張の反力が挙げられます。V曲げを例にすると、曲げられた被加工材にの内側が圧縮成形となり、外側が引張成形となります。こうした反力により、被加工材の幅方向の変形状態は、内側が圧縮応力により伸び、外側は引張応力により縮むため「そり」が発生します。
絞り加工
絞り加工とは、平板状の被加工材をパンチとダイの間に挟み込んで圧縮力や引張力を加えながら、パンチやダイの形状に沿って、継ぎ目のないお椀状の凹凸・容器を成形する加工を指します。その際、シワの発生を抑えるため、ブランクホルダーで被加工材を押さえて加工を行います。また、絞り加工の中でも底が深いものを「深絞り」底が浅いものを「浅絞り」と呼ばれています。
絞り加工はそこのある容器上の形状を形成するのに適しており、容器の厚みを薄く延ばす「しごき」を使いながら形成するのが一般的です。深絞り加工では。応力状態が複雑なため、圧縮圧力が一番かかる底面にしわが出やすく。側面には引張応力が働くのでクラックが発生しやすくなります。
以上は代表的なプレス加工方法で、プレス加工には様々な手法があり、求められる精度や用途、特性によってそれぞれ適した加工方法が選択されています。また、手法を組み合わせることにより、大・中型製品から小型製品まで多種多様な形状の製品の製造に対応することが可能になり、より効率的に生産することができます。
プレス加工は、高精度かつ効率的に製品を大量生産するための重要な技術です。これらの多様な加工方法は、様々な産業・分野での生産に大きく貢献しており、今後もその重要性はますます高まるでしょう。
金型によるプレス加工の種類
プレス加工には多種多様な手法がありますが、作り出したい形状の製品を実現するためには金型が必要不可欠です。作り出したい製品のための金型を設計するにはどのような手法をどの順番で組み合わせるのか、綿密な設計が必要となります。プレス加工製品は、製品の形状や寸法精度の検討から始まり、成形工程の検討を経て金型設計・製作に移り、さらに試作結果の修正を繰り返して完成します。
図1:プレス加工製品の製作工程
プレス金型は、加工製品の形状や寸法精度、生産数量など様々な特性を考慮し、単発型、順送型、トランスファー型、さらに特殊な用途で複合成形型に分けられます。
ここでは主に被加工材の搬送方式から見た金型の種類をご紹介します。
単発型
単発型は1回のプレス動作で1つの加工を行う金型で、主に生産数量が少ないときに用いられる手法です。特徴として、1種類の工程のみを行うため、金型の設計はシンプルなものとなります。一方で、形状によりますが、最終形状を得るためには複数の金型とプレス工程が必要となり、生産性は他の手法と比べて劣ります。特に、プレス設備の台数が少ない場合には、金型の変更などの段取りも要し、大きく生産効率が落ちます。上記の特徴を踏まえて、単発型は小ロット生産及び試作の際に適しています。
順送型
順送型は、効率的な大量生産を実現するプレス金型で、当社が金型の設計と量産を得意としております。順送型では、一つの金型内で複数の加工工程が行えるよう設計が行われ、板状の金属材料(コイル材)をプレス機に連続的に通し続けることで、高速での量産が行われます。また、サイズが小さい精密部品の量産も可能であることも大きなメリットです。デメリットとしては、金型の構造が複雑となり、特殊な設計ノウハウを要すること、製造の際の入念な試験が必要なことが挙げられます。
順送型に関しては、別の記事でも紹介しておりますので、詳細を知りたい方はぜひご覧ください。
トランスファー型
トランスファー型はトランスファープレスに用いられる金型で、トランスファープレスは順送プレス同様に連続的な量産を可能な手法となりますが、順送プレスと比較すると、ワーク(加工対象となる材料)を移動させて連続的な加工が行われるという点で設計が大きく異なります。したがって、トランスファー型は1つの金型と1つの工程が対応するため、個々の工程・金型を見ると、金型の設計はシンプルとなり、製品の高精度化が図れます。一方、ワークを移動させるために専用のロボット/システムが用いられますが、ワークを掴むために製品のサイズが掴める大きめのサイズに限られます。
複合成形型
複合成形型は、一度のプレス動作で複数の加工を行うことができる金型です。せん断、穴あけ、曲げなど異なる加工を組み合わせて一度に行い、高い生産効率を実現します。複数の工程が1つのステップで行えるため、製品の寸法精度も高められるほか、工程間のズレも抑えることができることが特徴です。一方で、金型の設計は非常に複雑になり、高度な技術とノウハウを要します。また、技術的な側面から、形状に関しても制限される場合が多いです。
プレス加工の不良・課題とその対策
プレス加工は、高効率かつ高精度な製品を大量生産を実現する技術ですが、加工工程において、様々な不良や課題が伴います。主な不良として、寸法不良、バリの発生、割れや亀裂、しわ、反りなどが挙げられます。これらの不良が発生する原因は、金型の設計や加工条件、材料の特性など、多岐にわたります。
寸法不良は、製品の寸法が設計通りに仕上がらなかった際の不良で、主に金型の摩耗や、材料のバネ戻りなどが原因です。寸法不良を防ぐためには、金型の精密な設計と製作、製作時の入念なトライアル(試験)、そして定期的なメンテナンスが必要です。また、加工条件の最適化、例えばプレス速度や圧力の調整も重要となります。特にバネ戻りに関しては、材料の特性に合わせた加工条件を設定することが効果的と言えます。
バリは、製品のエッジとなる部分に余分な金属が残ったもののことを指します。これは、金型の刃先が摩耗したり、材料が硬すぎたりした場合に発生しやすいです。バリは、製品の外観が良くないほか、組み立て工程や使用時にトラブルを引き起こす可能性があります。対策としては、金型の刃先を定期的に研磨し、鋭利さを保つことが有効です。また、材料選定の段階で適切な硬度の素材を選ぶこともバリの発生を抑えるポイントです。
割れや亀裂は、プレス加工中に製品に入ってしまうことがあります。これは、材料の強度不足や金型の設計不備、過度な加工圧力などが原因です。対策としては、材料の選定時に引張強度や伸び率などの特性を十分に考慮し、適切な素材を選ぶことが重要です。また、金型の形状を見直し、加工中の負荷を分散させる設計にすることも効果的です。
しわや反りは、製品の表面が波打ったり、全体が曲がったりする不良です。これらは、材料の厚みが均一でなかったり、加工中に材料が圧縮されすぎたりすることが原因です。樹脂加工においては、熱の影響も大きく寄与します。対策としては、プレス速度の調整や材料の送り速度の調整、そして金型の形状やすき間や間隔の適正化が求められます。また、材料の供給方向や圧力の調整も効果的です。
まとめると、プレス加工における不良や課題に対しては、金型の設計とメンテナンス、加工条件の最適化、材料選定など、多角的なノウハウが必要です。不良を未然に防ぐためには、工程全体を見直し、最適な状態で加工を行う必要があります。製品の品質を高め、効率的な生産を維持するために、これらの対策を継続的に実施することが重要です。
弊社のプレス金型及びプレス加工による製品事例
それでは、実際のプレス金型について、当社の順送型のプレス金型を紹介いたします。
自動車産業向け コネクタ部品製造用順送プレス金型
こちらは自動車産業用のコネクタ製造用のプレス金型となります。弊社にて金型の設計・製作を行いました。
求められる品質基準が高く、入念にトライアルを重ねて不良を最終製品の品質を高めた製品となります。
金型サイズ[mm] | 650×300×190mm |
個取り数 | 1個取り |
納期目安 | 約2ヶ月 |
業界・用途 | 自動車用コネクタ部品 |
産業機器業界向け 電源用部品製造用順送プレス金型
こちらは電源用部品製造用のプレス金型となります。弊社にて金型の設計・製作を行いました。
2種類の形状がありますが生産効率の向上に向けて、並行で生産可能な2種共取り・多数個取りを可能としており、弊社の設計ノウハウを生かした製品となります。また、納期が1.5カ月の設計込みとなり、弊社が順送プレス金型の製造実績を多数保有しているため短納期が実現できております。
金型サイズ[mm] | 550×300×200mm |
個取り数 | 2個取り |
納期目安 | 約1.5ヶ月 |
業界・用途 | 産業機器・電源用部品 |
まとめ~プレス加工とは~
プレス加工は、精密な成形や加工を短時間で行えるため、多様な製品の製造において不可欠な技術です。近年では、より高精度な加工を可能にするための技術革新が進んでおり、自動化された機械やロボットとの連携による効率化が進展しています。さらに、デジタル技術を活用したスマート化が進み、生産の柔軟性や品質管理の向上が期待されています。今後もプレス加工の分野は進化を続け、産業の多様なニーズに応える技術として発展していくでしょう。
順送プレス金型.comを運営する弊社、株式会社三國工業所は創業以来、順送プレス専門メーカーとして金型の設計から、設計した金型を用いた量産対応まで、完全内製化にて豊富な実績を有しており、材料特性や高速量産に向けた高品質な金型設計を実現する高度な技術力、生産効率を向上させる工場のスマート化を積極的に進めていることを強みとしております。
「金型の設計・製作のみ(売り型)」と「量産対応(金型設計製作含む・金型支給の両者対応可能)」、「短納期対応」や「公差が厳しい・難形状の製品の金型の設計」など、お客様の幅広いニーズに応えるサービスを提供しておりますので、もし、順送プレスでの製造や金型の設計・製作にてお困りごとがございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。